アルジャーノンに花束を 第9話レビュー
いつだってこんな風に、無邪気に無防備に。
それで幸せになれると疑いもせず信じて。
「アルジャーノンに花束を」 第9話
かつての咲人がいつも笑っていたのは防衛本能ではなく、幸せになるために笑っていたのだと気付く。
「君の勝ちだ」
かつての自分を受け入れ肯定できた瞬間でした。
笑っていろと教えてくれた人は、竹部社長を救った人でもありました。
咲人を父親のように見守り、咲人の母を気遣うのもその恩に報いるためだったのですね。
パパの自己犠牲の精神と、その魂が脈々と流れる咲人の血に受け継がれていることの隠喩として、竹部社長の背景がここで語られたのではないかと思います。
遥香の元を訪れた柳川が聞かされたのは、咲人が以前の咲人に戻ってしまうという事実。
彼の中の葛藤も苦しい。梨央を想う檜山も、咲人も大切な友達なのですから。
そして研究センターでは檜山が警察に・・
「友人であるならば当然しなければならない優しさを閉じ込めようとしたんだ。そう僕のためだ。そして君自身が自分の優しさを閉じ込めてしまった」
理性より感情で行動してしまう遥香と、心より脳が先に理解してしまう咲人。
理路整然と遥香の行為を分析する、そのロジックには微塵も隙がない・・・
「あなたを愛しているからよ」
「だとしたら、とても哀しい愛だ」
背中を向けて咲人も泣いていた。
この盲目的な恋人を本当は抱きしめてあげるべきなのだろうということも、おそらく咲人は分かっている。
理論で追い詰めるべきではないことも。
それでもやはり譲れないものがあるのですね。
父から受け継いだ正義が、魂がそれを許さないから。
神秘的なアルジャーノンとの別れのシーンでした。
まだ安全が確認されていないALGβを自ら打ち、アルジャーノンの解剖を拒否した小久保と森へと・・
そして花の種と一緒にトモダチを葬る・・・
「不安や恐怖は潜在レベルで瞬時に分析され論理的に砕かれてしまう。」
だれも経験したことのない領域まで知能が向上したことで何かを超越したよう・・
「偶然など一つもない、すべては繋がっている。始めから終りまで」
そして光になる。眠るトモダチの隣で。
「アルジャーノンは一匹だけでいい」
そう、感傷で言っているのではなく、知能の向上により未知の世界まで足を踏み入れてしまったことの弊害を、咲人自身が感じているのだと思う。
恋人を論破し、不安や恐怖までも論理で砕いてしまう・・・
その領域まで行った者にしかわからない苦しさがあるのです。
だからこそ、アルジャーノンと自分だけで終らせようとしたのだと。
仮説が間違いであることも、最早蜂須賀を超えた咲人には分かっている。
すべてを分かった上での選択・・
「誰かを救うためにこの知能を使わなければ、私とアルジャーノンの存在が無意味になってしまう」
魂が覚えている父から受け継がれた正義と自己犠牲の愛。
自分とアルジャーノンが生きた証を、その存在理由を印すために。
咲人はあらゆるものを超えて自分の運命を受け入れようとしているのですね。
梨央の病院で檜山と抱き合い、柳川に笑顔を贈る。
慈愛に満ちて・・
パパの幻覚は「あいきょでしょ」と咲人に笑いかける。
苦しいときは笑いなさいと。
「愛する彼女を失うかもしれないと怯えの中でも」
かつての自分のように笑ってなさいと。
過去の自分を肯定し受け入れたことで恐怖と向き合い、人のために残された時間を使う決心をした咲人の清々しい笑顔が印象的でした。
苦しく、切なく、哀しい選択でしたが、愛と正義溢れる優しい選択でした。
咲人らしい選択でした。
そんな咲人だから好きだったのです。
いよいよ最終回を迎えますが、予告だけで胸が詰まりそうですが、咲人と運命を共にし、最後まで寄りそっていたいと思います。
こうなってほしいと思うラストはありますが・・それはまだ私の胸の中に仕舞っておきます。


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